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高松高等裁判所 昭和50年(ラ)12号 決定

再抗告人

高橋弥右衛門

主文

本件再抗告を棄却する。

再抗告費用は再抗告人の負担とする。

理由

再抗告の理由の大要は、別紙(一)ないし(四)に記載のとおりである。

一再抗告人は、まず、民訴法四三二条二二八条二項による支払命令申立書の却下命令に対しては、民訴法二二八条三項による不服申立が許さるべきであつて、原決定には右法律の解釈を誤つた違法があると主張している。しかしながら、民訴法四三三条二項は、支払命令の申立を却下した決定に対しては、不服を申立てることはできないと規定しているところ、支払命令の申立制度は、もともと簡易迅速を旨とする制度である上、右支払命令の申立を却下した決定に対し不服申立を認め、かつ、その結果、裁判所が支払命令を発しても、債務者からの異議の申立があれば、支払命令は当然失効して通常訴訟の手続に移行し、かつ、その場合には、第一審裁判所は、右不服申立に対する抗告裁判所の裁判に拘束されないのであるから、支払命令の申立を却下した決定に対して不服申立を認める実益に乏しいといえるし、また、支払命令の申立を却下されても、右却下決定には、既判力のような効果はなく、債権者は、同一の請求について訴を提起することを妨げないから、右却下決定に対する不服申立を認めなくとも、債権者の権利・利益を不当に害することにはならないものというべく、以上のような諸理由から、前記不服申立を禁じた民訴法四三三条二項の規定が設けられているのである。しかして、右の如き民訴法四三三条二項の規定の設けられた趣旨からすれば、右同条項の規定は、同条一項の理由によつて支払命令の申立を却下した決定に対してのみでなく、その他の理由によつて右申立を却下した決定に対しても適用があると解すべきであるし(大審院・昭和一〇・一一・二九・決定・民集一四―二二―二〇〇〇参照)、さらには、支払命令申立書の不備を理由に、民訴法四三二条二二八条二項に基づいて右申立書を却下した却下命令に対しても、右民訴法四三三条二項の準用があるものと解するのが相当である。したがつて、民訴法四三二条、二二八条二項に基づき、支払命令の申立書を却下した却下命令に対しては、右二二八条三項の適用はなく、同法四三三条二項により、これに対する不服の申立はできないというべきであるから、本件支払命令申立書の趣旨・原因が不明であるとして、右申立書を却下した却下命令に対する本件抗告を不適法として却下した原決定に民訴法二二八条三項四三三条二項の解釈を誤つた違法はなく、右の点に関する再抗告人の主張は失当であつて、採用できない。

二次に、再抗告人は、原決定には、再抗告人の申立てた本件抗告が不適法であるという理由を明示していない違法があると主張しているが、原決定が、その理由中において、本件抗告の不適法なる理由を説示していることは原決定に照らして明らかであるから、再抗告人の右主張も、失当であつて、採用できない。

三次に、記録を精査するも、原決定に再抗告人主張の如き憲法違反のあることを認めることはできないし、また、以上の外、再抗告人の主張するところは、いずれも、原決定を違法ならしめる事由になるものとは解し難いから、再抗告人の主張は採用できない。

四よつて、本件再抗告は理由がないからこれを棄却し、再抗告費用は再抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

(秋山正雄 後藤勇 磯部有宏)

(抗告理由)別紙(一)〜(四)〈省略〉

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